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サイコパス社長との一日

一月六日は仕事始めだった。
一週間半振りのレッスン。
普通にいつも通りやったのだが、
前夜から少しピリピリしてきて、
また日常が戻ってくるという
喜びを感じた。

九時半から三枠やって、
十三時前に終了して、
そのまま車で約一時間半の
知り合いの社長さんがやってる
将棋教室へ。

指し初め会みたいなのに
ご招待頂いた。

「子供たちと指して~。」
ということだった。

少しは練習しとかないとなと
思いつつ、五手詰めの問題を
十~二十問解いたくらい。

これではいつもやってる他人には
敵(かな)いっこないとはわかっていた。

やり手の社長さんで、本業は別。
将棋教室は地元の国立大学の将棋部の生徒を
雇って先生にして経営している。

最初にその先生とお手合わせ。
序盤ボロボロ、勝てるわけないよね。
後で社長の言うにアマ二段とのこと。
ひいぃ。

で、中学生くらいの大人びた子に
「やってみなよ、
たぶん同じくらい(実力が)だよ~。」
と先生。なかなか人を見下した若者である。

将棋ができない人間はここではクズ扱い
なのかね~?と思いながら、
「まぁ若いからこんなもんだろ。」と
思いながらその子と一局。

序盤押されつつも我慢してたら
向こうのミスで飛車を抜く事に成功。

少し駒得でコチラはガチガチの穴熊。
普通は勝てるが、将棋ブランク約十五年の
アラフォーはここから詰めの甘さを
随所に露呈して徐々に攻めが切れる。

その隙に切れる寄せを頂き完敗。

「負けました。」と潔く言うのが
将棋道の大変なとこ。
しかししっかり言いましたわ。

先生嬉しそうに駆け寄ってきて生徒に
「これを勝つなんてスゴイね~!」

なんか僕は将棋指してもらってる
感じなのかね?と思いつつ、
まぁ雇われ先生なんてこんなモンだ。
と我慢と言うか、人を雇うって大変と言うか、
社長だけは生徒さん達(あとで聞くに全員小学生。
もう少し大人がいると思ってた。まぁいいけど。)に
「はるばる○○から来て下さってるのだから感謝しないと。」
みたいに何度か行って下さったので、
その社長のお気持ちだけをありがたく頂戴していた。

「もうこの子たちとは指したくないな~。」と、
社長とだべったり本読んだりしていたが、
社長からも何も言われなかったのでそのまま
お開きまで将棋を指さずに過ごすことができた。

で、将棋教室参加のご褒美(?)で飲みに
連れて行ってもらった。

社員さんとか先程の大学生の先生とか
誘って行くのかね~と思って待ってたら
皆帰らせられて、サシ飲みだった。

社長とは久しぶりのサシ飲みですよ。
五年ぶりとかなるかも。

社長はとある分野の天才だと僕は思っている。

「とある分野」とは、名前が付けられていない、
もしくは自分の知らない領域であるから
そう呼んでいる。

強いて言うなら、溢れた情報の中から
本当に稼げる情報を釣り上げることが
できる能力とでも言うか。

本人もそれは分かってて、
随所に「それはできるんだよね~。」
みたいな物言いが出る。

だからまぁ多くの方に好かれるタイプではない。
僕はいつもこの方が近くにいるとダメだ。
でもたまに誘われると嬉しい。

飲み屋にいく歩きすがら、
「よこの序盤は何なのアレ?」
「俺も数千局は指してるけど、
あんな形ならんやろ?」と将棋のダメ出し。

十五年のブランクある人間が
あまり勉強もせずに頑張ると
あんなになるんですよって。汗

まぁそこからは、
「誰々はもっとこうしたら良い。」
「俺は最善手の人生を歩んでいる。
でも他の人にそれを薦めると嫌な顔される。」
みたいな仕事や人生の話を聞いてた。

もうこのブログだから言っちゃう。
社長も言わないし、僕も言わないけど、
社長から滲み出る孤独感ね。

そこは五年前と変わってなかった。

社長の言うのは愚痴もある。
でも、普通に世の中に溢れる愚痴より
僕としては色々勉強になる。
人の上に立っているがゆえの愚痴と
言うのだろうか。

もう初めて会ってから二十年くらい
経つもんな。
その頃はお互いに学生だったか、
もしかしたら僕はもう勤めていた
かもしれない。

僕の小学校の同級生が
例の国立大学に通ってて、その先輩が
今や社長である。

専門校卒の僕の何かを気に入って
くれて、同じ趣味が競馬だったから
大きなレースの度に連絡は取り合っていた。

最初は「センパイ」と呼んでいた。

会う度にどんどんお金持ちになる
センパイ。

孤高であり、サイコパスでもある。
たまにすごい馬券を当てる。
僕も独立を志したが、
彼のようにはなれないし、
ずっと違いは感じている。

でも、たまに人生のコツのようなものが
彼の話の中に見え隠れする。
向こうも全部は出さない。
それを彼にお金を払ってまで
学びたい人もたくさんいる。

僕はそれを自分なりに噛み砕いて、
実践して、多少生活の糧に
させてもらっている。

彼が僕を他人に紹介する時は、
よく「私はこいつの師匠筋です。」
みたいに言われる。
ちょっとムカつくけど、嬉しそうだから
良いかなと思いつつ、
僕の中のもやもやはずっと、
「求める幸せの形が違うんだよな」
に限る。

結局誰とでもそうなる。
僕の場合は、それを他人になるべく
押し付けないようにしないといけないと
注意して生きている。多分できてないけど。

そう言えば去年の夏、
小倉競馬場でばったり会った。

僕は独り。向こうは家族連れ。
社長はほろ酔いだった。
レースの出走を待ってる時にふと、
「なんかさ、最近よこみたいな生活も
悪くないんじゃないかと思ったりもするんよ。」
とポロリと社長に言われた。

あれは嬉しかったなぁ。
その日はその後一緒に二レースくらい買って、
スゴい馬券を社長が当てて払い戻しの時に
はぐれてそのままサヨウナラ。

約束も挨拶も無い時間だったのも
今思うとこれはこれで良かった。

飲みは結局二件目のスナックで
僕がウトウトになってしまって終了。
僕は近くに宿取ってたので
そこまでタクシーで送って頂きましたとさ。

社長はそのままそのタクシーで、
車で三十分程の自分の家へ帰って行った。
相変わらず、お金持ちってすごいお金の
使い方をなさるものだ。

yokoyafarm:
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